1.それぞれの決意と旅立ちなんてロクな事がない

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◇ 村長宅に流れる沈黙。 何だかとんでもないものを見た気がするのは俺だけだろうか…と、そうでもない。 両隣でこの手記を覗き込むシルファやミラは唖然としている。 だが、俺の肩越しからこれを見詰めるクラインは別で、何か思うところでもあるのか、表情を曇らせてグッと俺の肩を掴んでいた。 「…お前、これ知ってたのか?」 「……。 いや、オレはその……封印…されていたからなぁ。」 まるで何かを誤魔化す様に。 封印という言葉を口にしたクラインの口調がどこか酷く辛そうで気にかかるが、俺はそれよりも様々な事実の発見に驚いていた。 ここに書かれた内容によれば、勇者アレキスは最早勇者と呼べない程に狂ってしまった様だし、シルファが言っていた“魔族側の事情”とやらも正しい。 そして世界(もしかしたらこの大陸だけかもしれないが)から一度魔術が消えた理由も……あの黒猫───あいつが魔王だという事も……ハッキリした。 二千年前の英雄…有名な聖女アーリアの手記。 グランフォードでは月の女神として、シャルマーでは聖教の神として…この大陸の様々な国で奉られている様な、偉人の手記だ…世紀の大発見である。 最後の方はシルファ曰く「戦場と化していた帝都で拾った」らしいので、焦げて文字が掠れてしまったり、それこそ数ページは燃えてしまっていたが……それでもこれは凄い。 何故こんなものを、というのも─── 鬼族の村を出発する為の準備をしていた金髪の少女が手に取った“ブツ”に興味を示した赤髪の女。 「お、何その手帳? やけにボロボロ…というか、あの仮面野郎が持ってた気がするんだけどねえ。」 「あっ! 人の物を勝手に見ては───」 「まあ、いいじゃないさ。」 といった会話があり……つまりミラが手記をシルファの手から半ば強引に奪って、そのページを開いた事が発端である。
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