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「桃。おかえり」
再び言う辰也に、桃華がぎこちない笑みを浮かべる。
「ただいま」
小さな声で答えると、調理台の隣にある木製の椅子にちょこんと腰掛けた。
「学校は慣れたか?」
辰也から、作りたてのバナナジュースを受け取りながら、桃華が無言で頷く。
「学校は楽しい?」
「───」
「友達は?」
「───」
辰也は調理台に腰掛けると、桃華の頭を軽く撫でた。
優しげな笑みを浮かべてはいるが、真剣な眼差しで、桃華に傷は無いか、服装に不自然な汚れが無いか等の、イジメの痕跡の有無をさりげなくチェックしている。
「まだ友達出来ないのか」
安堵の表情を浮かべ一息つくと、困ったように辰也が言った。
「……友達って作らなきゃダメなの?」
小さな声で桃華が答えた。
口数は少ないが桃華はすっかり辰也になついていた。
辰也から、店の奥の居間で好きにしてて良いと言われているにも拘わらず、桃華は下校すると、美加が迎えに来るまでの大半を、この椅子に腰掛け過ごしていた。
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