8人が本棚に入れています
本棚に追加
桜子は青年の首に腕をまわすと、ますます強い力で青年のシャツをつかみ、息がかかりそうなほど顔を寄せた。
「おまえとか呼ばないでくれる? ムカツクから! 私の名前は九条桜子よっ」
「訊いてねえし、どうでもいい!」
間近に見た青年の瞳が萌黄色に見え、桜子の手から一瞬力が抜けた。
その隙をついて、青年が桜子の腕を振り払う。
何かを言いかけて、青年はため息をつきながら目を伏せた。
「あー、もういい。疲れた。行け」
犬でも追い払うかのように、ひらひらと手を振る。
その仕種は桜子の怒りの導火線に火をつけるに十分だった。
「行け、ですって? 命令? あんたナニ様? ふざけんな」
「この……。俺がおとなしく言ってやってるうちに消えろ」
凄むような青年の低い声にも桜子は怯まなかった。
「むっかつく!」
言葉と同時に繰り出された桜子のこぶしを、青年は難なく受け止めた。
「だから、それは俺のセリフだっつーの!」
「じゃあ、黙れ」
「じゃあの意味が分からねえ!」
最初のコメントを投稿しよう!