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 桜子は青年の首に腕をまわすと、ますます強い力で青年のシャツをつかみ、息がかかりそうなほど顔を寄せた。 「おまえとか呼ばないでくれる? ムカツクから! 私の名前は九条桜子よっ」 「訊いてねえし、どうでもいい!」  間近に見た青年の瞳が萌黄色に見え、桜子の手から一瞬力が抜けた。  その隙をついて、青年が桜子の腕を振り払う。  何かを言いかけて、青年はため息をつきながら目を伏せた。 「あー、もういい。疲れた。行け」  犬でも追い払うかのように、ひらひらと手を振る。  その仕種は桜子の怒りの導火線に火をつけるに十分だった。 「行け、ですって? 命令? あんたナニ様? ふざけんな」 「この……。俺がおとなしく言ってやってるうちに消えろ」  凄むような青年の低い声にも桜子は怯まなかった。 「むっかつく!」  言葉と同時に繰り出された桜子のこぶしを、青年は難なく受け止めた。 「だから、それは俺のセリフだっつーの!」 「じゃあ、黙れ」 「じゃあの意味が分からねえ!」
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