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 怒りながらも律儀にツッコミを入れてくる青年のことが急に可笑しくなり、桜子はくすくすと笑いだした。 「……おまえ、マジで頭イカれてんな?」 「失礼なことを言うもんじゃないよ、おにーさん」  そう言って、桜子はニタァと笑う。 「ねえ、おにーさん。わたしキレイ?」 「は? どこぞの妖怪か、おまえは」  青年はまるで不審者を見るかのように、あからさまに顔をしかめた。  桜子はニタニタ笑いながら再度尋ねた。 「ねえ、わたしキレイ?」 「自分で鏡を見ろ。こえーよ、おまえ! マジで!」 「んふふふ。ありがと」 「おまえっ、俺の言葉がちゃんと聞こえ……ぐあっ!?」 「おにーさん、いいひとねー」  飛びつくようにして青年の首に両腕をまわすと、桜子はそのまま風のように青年に口づけた。 「いいひとだ、いいひと」 「……っ! なにしやがる!」  今度こそ突き飛ばされ、桜子は尻もちをついたが、あはははと大口を開けて笑うばかりだった。  ほとんど人通りのない夜道でその声は周囲のビルに反響し、異様なほど大きく響いた。
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