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ドンっと乱暴に置かれた大判のメニュー表が、勢い余ってスタンドから斜めにこぼれ落ちる。
チッと舌打ちして、忌々しげにメニュー表をスタンドに押し戻すのは、長い黒髪を無造作に首筋で束ねている少女だった。
「桜子ってば、ちょっとは落ち着きなよ。八つ当たりして店の物とか壊さないでよね」
「うっさいわね。そんなことしないわよ」
言いながらも、桜子と呼ばれた少女の手はおしぼりを捻りつぶしていた。
その様子を横目で見ながら、桜子の隣に座っていたショートカットの女性が頬杖をつく。
「……で、桜はいったい何をそんなにご立腹なわけ? 早苗がいきなり私らを呼び出すくらいだから、どうせ桜がらみの面倒ごとだろうとは思ってたけど、こんなのもっと先に言っといてくれないと困るよ」
捻りつぶすだけでは飽き足らず、おしぼりを引き千切ろうとしている桜子を指差し、ショートカットの女性がため息をつく。
「こんなの、武装してこないと危険じゃない」
「ちょっと、メグさん! 人を凶暴な獣か何かみたいに言わないでくれる!?」
「あんたが凶暴じゃないって言うなら、この世のものはみんな温厚だよ」
「もうメグ姉ってば、頼むから火に油を注ぐようなことしないでよ」
桜子の向かいに座る早苗が、困り果てた顔で額を押さえる。
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