8人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
恵美は気のない様子で水を飲み、肩をすくめた。
「はいはい。それで、今回の被害者はどこの誰? またどこぞのチンピラ?」
「あのねぇっ。私をなんだと思ってるのよ。被害者は私よ、わ・た・しっ!」
「被害妄想? これは厄介ね」
「メグさん、殴っていい?」
おしぼりを掴む桜子の手はぶるぶると震えていた。
殴るどころか、そのおしぼりで相手の首を絞めにかかりそうだ。
だが、恵美は涼しい顔でまた水を飲む。
「そこで、いいと答えるバカがいると思う? もし本気でそんなこと思ってるなら、あんたは相当おめでたいねぇ」
びしっと、限界まで引っ張られたおしぼりが、桜子の手の内で今にも悲鳴を上げて裂けそうだった。
「メグ、そろそろ本気でやめときなって」
桜子の斜め前で鏡を見ながらリップクリームを塗っていた女性が、落ち着き払った声で口をはさんだ。
「桜子に大声出させたら、目立って仕方ないんだけど。それに、さっさと話さないなら、私帰るよ? このあとデートの約束あるし」
「朱音(あかね)ちゃん、そんな冷たいこと言わないで」
縋りつくように早苗が朱音の袖をつかむ。
ぱちんと、音を立ててコンパクトを閉じると、朱音はゆるく巻いてある毛先をくるくると指に絡めた。
「じゃ、さっさと説明してくれない? あ、私はどっちにしろ、あと一時間しか付き合えないからね。あとはメグに任せるわ」
最初のコメントを投稿しよう!