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 恵美は気のない様子で水を飲み、肩をすくめた。 「はいはい。それで、今回の被害者はどこの誰? またどこぞのチンピラ?」 「あのねぇっ。私をなんだと思ってるのよ。被害者は私よ、わ・た・しっ!」 「被害妄想? これは厄介ね」 「メグさん、殴っていい?」  おしぼりを掴む桜子の手はぶるぶると震えていた。  殴るどころか、そのおしぼりで相手の首を絞めにかかりそうだ。  だが、恵美は涼しい顔でまた水を飲む。 「そこで、いいと答えるバカがいると思う? もし本気でそんなこと思ってるなら、あんたは相当おめでたいねぇ」  びしっと、限界まで引っ張られたおしぼりが、桜子の手の内で今にも悲鳴を上げて裂けそうだった。 「メグ、そろそろ本気でやめときなって」  桜子の斜め前で鏡を見ながらリップクリームを塗っていた女性が、落ち着き払った声で口をはさんだ。 「桜子に大声出させたら、目立って仕方ないんだけど。それに、さっさと話さないなら、私帰るよ? このあとデートの約束あるし」 「朱音(あかね)ちゃん、そんな冷たいこと言わないで」  縋りつくように早苗が朱音の袖をつかむ。  ぱちんと、音を立ててコンパクトを閉じると、朱音はゆるく巻いてある毛先をくるくると指に絡めた。 「じゃ、さっさと説明してくれない? あ、私はどっちにしろ、あと一時間しか付き合えないからね。あとはメグに任せるわ」
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