【第一章】 『緋咲茜による愛情の世界』

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―――― 生徒会室を出た僕は直線状に伸びる廊下を、左へ向かった。 進む先に有るのは、上の階層へ続く階段と外に繋がる昇降口。 終業時刻を1時間も過ぎてしまっているからなのだろう、周囲に人影は無く、昼間とは打って変わって静穏な世界が広がっている。 ――と、 言いたいところ、なのだが。 生憎、 世界は“キュッキュッ”と、室内シューズのゴム底と床とが擦れ合う喧騒で満ち溢れている。 音は上の階層から、 大方バレー部あたりが室内練習でもしているのだろう。 僕の放課後を邪魔しやがって、会長権限で休部にしてやろうか。 ――なんて風な冗談をほんの少しだけ考えて、昇降口へと向かう。 あ、 本当に冗談ですからね。 本当ですよ? 『部活動』素晴らしいです。 雲村冠は、汗滴煌めく青春を過ごす皆さんを応援しています。 そんな時だった。 不意―― 「―なんで――。」 青春の音に紛れて、 何か、すすり泣く様な音が耳へ入った。 それは、 この世界の大部分を占める夢と希望に溢れた旋律とは対照的の、 弱弱しくて儚げな、世界に絶望している様なものであった。 僕は、声の聞こえた方向へと視線を動かす――。 そこには、1人の女子生徒が居た。 昇降口、確かそこは2年1組の区画、下駄箱を前にしたその場所で小さく蹲っている。 女子生徒は、 小刻みに身体を振るわせて、苦しそうに嗚咽を漏らす。 確か、彼女は―― ――うん、駄目だ、名前が出て来ない。 見覚えは有る気がする、正面から顔を見る事が出来れば思い出せるかもしれないが――。 さて、 僕は彼女に声を掛けるべきなのだろうか? 世間一般に言う心優しい生徒は、 こんな場合「大丈夫?」と、気に掛けるのだろうか? 将又、 見ていない振りをしてやるのが優しさと云うものなのだろうか?
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