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――――
生徒会室を出た僕は直線状に伸びる廊下を、左へ向かった。
進む先に有るのは、上の階層へ続く階段と外に繋がる昇降口。
終業時刻を1時間も過ぎてしまっているからなのだろう、周囲に人影は無く、昼間とは打って変わって静穏な世界が広がっている。
――と、
言いたいところ、なのだが。
生憎、
世界は“キュッキュッ”と、室内シューズのゴム底と床とが擦れ合う喧騒で満ち溢れている。
音は上の階層から、
大方バレー部あたりが室内練習でもしているのだろう。
僕の放課後を邪魔しやがって、会長権限で休部にしてやろうか。
――なんて風な冗談をほんの少しだけ考えて、昇降口へと向かう。
あ、
本当に冗談ですからね。
本当ですよ?
『部活動』素晴らしいです。
雲村冠は、汗滴煌めく青春を過ごす皆さんを応援しています。
そんな時だった。
不意――
「―なんで――。」
青春の音に紛れて、
何か、すすり泣く様な音が耳へ入った。
それは、
この世界の大部分を占める夢と希望に溢れた旋律とは対照的の、
弱弱しくて儚げな、世界に絶望している様なものであった。
僕は、声の聞こえた方向へと視線を動かす――。
そこには、1人の女子生徒が居た。
昇降口、確かそこは2年1組の区画、下駄箱を前にしたその場所で小さく蹲っている。
女子生徒は、
小刻みに身体を振るわせて、苦しそうに嗚咽を漏らす。
確か、彼女は――
――うん、駄目だ、名前が出て来ない。
見覚えは有る気がする、正面から顔を見る事が出来れば思い出せるかもしれないが――。
さて、
僕は彼女に声を掛けるべきなのだろうか?
世間一般に言う心優しい生徒は、
こんな場合「大丈夫?」と、気に掛けるのだろうか?
将又、
見ていない振りをしてやるのが優しさと云うものなのだろうか?
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