【序 章】 『雲村冠による幸せの学園』

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―――― この世界に 奇跡や劇的なんてものが実在しない事を、 僕は知っている。 理想や平和、 夢や希望なんてものは妄想や空想の世界にしか存在しない事を, 僕は知っている。 例え 遅刻しそうになっても、パンを咥えた女の子とはぶつからないし 転校生は幼馴染みじゃない ムーンプリズムパワーでメイクアップなんてできないし 超能力なんて論外だ ラスボスは父親じゃないし そもそもラスボスなんて存在しない 現実とはその名の通り、 事実を現しただけ。 普遍的で閉鎖的で退屈なのである。 理想の現実なんてものはお伽噺だ。 それ故に、だからこそ逆説的に、 人々はファンタジーと呼称される創作物の虜になってしまうのだろう。 そこには追い求める理想があるから。 ――しかし、失念してはならない。 憧憬を抱くそれは空想であり、実在しない事を。 現実に理想を強要してはいけない。 空想を現実の境界を見失い 、 混同した先に待つのは、再びの失望だから。 もう一度言う、 この世界に奇跡や劇的なんてものは存在しない。 ――それを、 世界の真理とも呼べるであろうその事実を知ってしまったからこそ。 僕はもう失望しない。 絶望しない。 大好きだった『ピカ○ュウ』の背中に、 チャックを見付けた時の絶望を、僕は忘れない。 着ぐるみの中から聞こえて来た荒い息遣いと、 ツンとした汗の匂いを、僕は決して忘れない。 “――僕はもう既に この世界を諦めている――。” ――――
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