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「ああ、やっと森から抜けたか……」 呟いたその声も、かつては社交界の女たちに挨拶一つでトキメキや感嘆の溜め息を与えていた。 ――あとは迎えを待てばいい。 傲慢だと、人は自分のことを言う。 その言葉を何度鼻で笑ったか。傲慢で何が悪い? 公爵家の嫡男だ。視力が落ちた目も、手術を望めばいつでも治せるという。 再び“見える”世界に戻ることができる。 ただ、望んでいない。 それが傲慢だと言うのは、シモンのいる世界を知らないからだ。 シモンは何不自由なく暮らせる。 何もしないでも、生きていけるのだ。 それは金があるから。 ――なのに。 足りない。 シモンにとっては何不自由ない暮らしというのはそういうことじゃない。 それがわかっていないやつが多すぎる。 求めているのは、ひどく曖昧で不確かで、存在するかわからないもの。 なぜならシモンはまだその手に掴んだ事がない。 その身で感じたこともない。でもすごく温もりのあるものだということだけは知っている。 ――“愛”――が、自分には足りない。
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