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自分でも、まだそんなものに執着しているのはおかしいと思う。でも、それがない世界には、なんの輝きも彩りも魅力もない。
この淡く曖昧な輪郭しかない世界から抜けだし、現実を見ようと思えるほど強い想いが湧いてこない。
恐ろしく曖昧で、はっきりと見えない。
見えないからこそ、見ずに済むからこの世界から抜け出すのが怖い。
はじめから、何も見えず暗闇しか知らないなら、手術もすぐにしていたかもしれない。
でも、一年前から少しずつ視界は淡い靄を見せるようになっていった。
それはシモンにとっては好都合なこと。
厳格で家庭を顧みない父親、社交界のことばかり考える母親。
誰も自分のことなど見てはいない。
そんな家族との距離を思い知るような家の様子を見なくてもいいのだ。
厳しい教育を受け、社交界に出ても、近寄って来る女は宝石やドレスで着飾り、香水という名の異臭を漂わせるだけ。
甘えたように話す口調も、甘えた仕草も、高らかに笑う声も。
すべてが煩わしかった。
貴族というだけで、それを笑顔で相手しなくてはいけないことも、投げ出したいほど嫌だった。
それが、今は楽なのだ。
見えなくなり、社交界には行かなくなった。
何もしない毎日。
ただ過ぎて行く日々を静かに送りたい。
それを傲慢と言うなら言えばいい。
くだらない世界に戻るより、不自由でも淡い光とおぼろげな輪郭の世界に身をおくのが心地良く感じられる。
社交界に戻れば、また表面上の笑顔と世辞をならべ、取り繕い生きて行くことになる。
――くだらない。
自由に動き回ることがままならない世界でも、シモンにとっては今が心地いい。
――従兄を養子にするのなら、すればいいさ。
療養と称して半年前から追い出されるように住んでいる屋敷をこうして飛び出してきたきっかけは、メイド達の噂。
「シモンの父親は、弟の息子を養子にするつもりがある」
自分が、この生活から抜け出さないでいることに対しての脅しだろう。
そんなこと、本当にする訳がないと普通なら思う。
――する訳がない?
むしろ、するだろう。
相手は、あの父親だ。今でさえ、手術を受けないことに対して怒り、一人遠くに追いやられた身。
また、苦笑いが込み上げて来る。
――くだらない。
光を浴びようと一歩前に出た時、フワリと、何かが顔にかかる。
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