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しかし、そんな祖父もかつては映画監督になりたいと思っていたのです。
ですが、一条の跡継ぎという使命を背負って生まれてきた自分には叶わぬ夢と諦めていました。
そして、祖父とは違い一条の鎖に縛られずに好きなことをやる弟を羨ましく思っていました。
演劇に興じる弟の舞台を見に行った祖父は、舞台女優と恋に落ちます。
二人は愛し合うも、一条の鎖を解くことは出来ずに祖父は良家の令嬢と結婚させられ、一条財閥の総帥になったのです。
妹の千鶴は祖父の弟からその話を聞き、祖父に問いかけました。
「総帥は代々自分を殺して一条家を護ってきた。そこまでして守る意味は? 自分を殺してまで守るべきものだったの? 兄様がやりたい遺伝子研究は、不治の病で苦しむ人々の希望になる。だからお爺様も研究所に多額の資金援助をしたんでしょ?」
そして千鶴は、自らの決意を告げました。
「良家の血が必要と言うのなら、お爺様が決めた相手と結婚するので、私に跡を継がせてください。兄様には好きな仕事をさせてあげて。愛する人と一緒にならせてあげて」
僕も、夢に対する思い、拓也に対する想いを切々と訴えました。
暫く瞑目して考え込んでいた祖父は、目を開けると憑き物が取れたように微笑み言ったのです。
好きにしなさい、と。
後遺症もなく回復した僕に、心配しておりました、と入院中は一度も見舞いに訪れなかった有栖川の娘が会いに来た際、跡継ぎは千鶴になった、と祖父が告げました。
翌日には婚約破棄の申し出が届き、僕に婚約者はいなくなりました。
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