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「……え?」
扉の先には、なんて言う名前なんだろうか、春先になると畦道に咲く小さな青い花が群生する野原が広がっていた。
足元には、一歩で渡れるくらいの小川がチロチロと流れている。
何故だか無性に野原を走りたくなって、小川を渡るべく足を踏み出そうとするが、見えない壁に阻まれた。
透明度が高くて気付かなかったが、白い世界と野原はガラスで仕切られているようだ。
何処かに出口はないものかと探してみるが、侵入を拒むようにガラスの粒子はガッチリくっついている。
「貴方も彼方に行けないのですか?」
突然かけられた中低音の心地よい響きの声。
振り返ると、柔らかそうな茶髪に目の前の小さな青い花が映り込んだような青い瞳、すうっと通った高い鼻に程よい厚さの唇。
そんな全てのパーツが整った綺麗な顔を乗せた長身の体に、燕尾服を纏った若い男が立っていた。
「オオイヌノフグリですね」
「オオイヌノ……フグリ?」
「そう、あの花の名です。大犬の陰嚢に似ているところから、その名がついたようですよ」
「げ、犬の金玉って名前なのか? あの花好きだったのにショックだ」
「嫌いになりました?」
「いや、悲惨な名前つけられてたって知って、余計好きになった」
なんでこんな処で謎のイケメンと、罰ゲームみたいな名前をつけられた小さな青い花について語り合っているんだろう。
扉を開けたら分かると思っていた状況が更に分からなくなって不安なはずなのに、目の前に広がる穏やかな風景と春の陽射しのような男の笑顔に和んでしまう。
丁寧な語り口で品があり、燕尾服が板に付いている男は執事のようで、花を眺めながら紅茶でもいかが? と言いだしそうだ。
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