文月

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「貴方は、どうして此処に?」 「どうしてって……」 青い双眸に瞳の奥の記憶を覗くように見つめられ、ズシンと頭に痛みが走る。 突如、脳内に響き渡る蝉の大合唱。 大音量で響くそれで割れそうな頭を抱えて蹲る。 すると、白い世界にいることに気付いてから、ずっと乳白色の靄のかかっていた脳内に様々な色が飛び交い始め、一つに纏まると映像が流れ始めた。 ジリジリと照りつける殺人兵器のような太陽の元、近所のコンビニにアイスを買いに行った俺は、滝のような汗を流して家路を走っている。 肥料でもやっているのか、二メートルを優に越える馬鹿でかい向日葵の咲く家の角を曲がると、宅配のトラックと出会い頭にぶつかった。 痛みはなかった。 日光がフロントガラスに反射して眩しくて。 道路に落ちたビニール袋が目に入って、くそ暑い中を買いに行ったのに食べる前にアイスが溶けちまうじゃないか、と悔しくなって。 高い処から見下ろす視界に、もしかして空を飛んでるのか? と吃驚するも浮遊感が気持ちよくて恐怖は感じなくて。 運び込まれた病院で忙しなく動く医者や看護師を、テレビ画面の向こうの医療ドラマを見ているみたいに眺めてて。 駆けつけた両親がベッドで横たわる俺を見て顔面蒼白で立ち竦む姿を見ていられなくて、病室を出て廊下を歩いていたんだった。 「俺、死んだのかな……」 黒の燕尾服を着たこの男は、天国へ案内してくれる執事なのか? はたまた、美しい容姿で惑わせて地獄へ誘う死神なのか? さっきまで他人事のように見ていた光景が急に現実味を帯びてきて、恐怖に震えた。 まだ死にたくない! 死ぬのは怖い! もっと生きたい! 発狂しそうになるのを唇を噛んで耐えていると、男がふわりと微笑んで言う。 「貴方はまだ生きていますよ。心と体が離れている状態です。僕が体に戻れるように導いてあげましょう。その代わり……」
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