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やれやれ……。今日日、手品師だって長袖なんぞ着はしない。着ていたとしても、これ見よがしに腕まくりして見せ、どこにも怪しいものはないとアピールして見せる。
このお隣の大国から来た詐術士は、なんとも温い世界で商売してきたようだ。
杜撰な技術で誰も怪しまず、ありがたがってくれるような場所で祭り上げられてきたのだろう。
それがこの国でも通用すると思っているのだろうか?
小松は浮かんだ冷笑を隠すためもあり、手元に置いたあったハンカチを手にし、汗を拭う素振りを見せる。
汗などかいていない。
ただのポーズ。
『これは裁判だ』
冷笑をハンカチで隠した小松は心の底から嘲笑いながら、自分に言い聞かせた。
『そして自分は検事』
善良な市民をデタラメな所業で誑かす罪人を断罪する。
それが彼の使命だと信じた。
小松は眼鏡に指先を添え、ずれを直す素振りを見せた後、自称超能力者に対して丁寧な口調で話しかける。
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