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―5―
困ったことに――というか、もう困り果てている。
あの魔法石をどっかでなくしてしまったから――だけじゃない。
俺、ロイク・タレィランはアホな声を出す。
「え、ここ通れないんすか?」
町の坂を下ると川がある。
塀に囲われた扇形のこの町は、扇の弧の部分に川が流れている。川の流れは速く船さえ出ない。だからこの町から出るためには川岸の東西にある門から出なくちゃならない。
なんとかたどり着いたこの場所で、しかし門番は言ったのだ。
人は通さぬ、と。
「ちょ、ちょちょちょ、待ってくださいよ。いや、だって俺、早くここから出なきゃ殺されるんだよチスカに! あんたわかる? チスカだよ、マフィアだよ!」
甲冑に身を包んだ二人の門番は互いに顔を合わせ、そして肩をすくめた。
「そもそも、我々はここから人を出さぬためにいるのだ」
「はぁ?」
戸惑う俺に、もう一人の門番は諭すように言う。
「何十年と、誰もこの町から出た者はいないのだぞ?」
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