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俺は歴史を知らない。
というか、ガキの頃に大した勉強なんてしてこなかった。誰も無理に勉強なんて押しつけてこなかったから俺はマフィアになるくらいしかなかった。
外の世界も知らない。
俺は――というかこの町の人々は、ここでの生活に居心地の良さを感じて外へ出ようなんて考えない。言われてみれば、俺の周りでは誰一人として外に出たいなんて言い出すやつはいなかった。
外は、人からの噂や本でしか知らない。もしかすると俺が教えられていた外なんてものは全部虚構で、塀の外には実は何もなくて――仮にそうであったっておかしくはないんだ。
「ど、どうやったらここから出られるんすか……?」
消えそうな光に俺は手を伸ばす。
しかし門番は言った。
「そんな方法、あるわけないだろう」
愕然として、顎が外れた。
アホみたいに開いた俺の口から、魂が抜ける。
「ほら、帰りたまえ」
しっしっ、と犬でも追い払うかのようにする門番に刃向かうこともせず、俺は回れ右して歩いて行った。
帰るなんて、どこへ帰れば良いのだろう。
土に還るしかないのだろうか。
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