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■第1話・・・過去の記憶
「 ねぇ… 大空 」
「 ん? 」
「 …好きだよ 」
「 ありがと 俺も好き 」
甘い声が、混じり合って交差する。
彼女の白く細い指先は、優しく俺の頬に触れて首筋へと流れた。
視界が滲んだ。
彼女の顔は、ボヤけてよく見えなかった。
冷たい雫は、頬を伝う。
「 大空… 泣いてるの? 」
「 泣いてないよ 」
「 嘘… 」
細い指先が、弱々しく俺の頬へと近づき 涙を拭った。
彼女は少しはにかんで、こう告げた。
たしか… これが彼女の最後の言葉。
「 今日泣いたから 明日は笑えるね… 大空…! 」
彼女の頬には、透明で美しい涙が伝っていた。
微かに微笑み、それでいて儚くか弱い。
「 無理だ… お前がいなきゃ俺は笑えない… 」
いつの間にか、彼女の瞳は閉じられていた。
俺の声は聞こえていなくて。
今、目の前にいる彼女は… もう……。
その夜は、ただただ抜け殻のように唖然としていた。
未だに、死んだとは思えずに
生きているんだとも思えずに
病室の隅にしゃがみ込み、一晩中 蹲っていた。
何も考えず、何も考えず。
けれど
ただ、涙だけが
溢れ、流れ出すことをやめなかった。
「 俺を一人にしないでくれ… 佐波…… 」
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