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【場面9――亡妻の私室】
調律師が鍵盤楽器をしらべている。
タデウシュ、その傍らに立って、
タデウシュ 具合はどうだろう。
調律師 やはり部品を交換した方が手っ取り早いでしょう。
タデウシュ そこをどうにかしてもらいたい。
調律師 承知しました。余計に時間をかけなければなりませんが。
タデウシュ すまないな。
調律師 いえ。……こちらは奥様の遺品でしたね。
タデウシュ そうだ。フラウが亡くなってからもう弾く者はいないのでそのままにしていたが、どうも気になるので、また整備する気になった。
調律師 そういうこともあるでしょう。
タデウシュ 娘が一人いるが、あれはピアノに親しんでいなくてね。
調律師 これはピアノではなくハープシコードというのですよ。
タデウシュ そうだったかな。
調律師 ところで修理を終えたら試奏して構いませんか。
タデウシュ ああ好きにするといい。
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