第2部

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動物愛護団体に対して紳士協定を持ちかけたほどであるというから事の重大さは推して知るべし空前絶後の公共事業として後世に語り継がれるであろう悲劇と喜劇両面の要素を境界として同時刻に破綻することを市議会は認めざるを得ないこともまた因果であるなどとは思いもよらず我々は百貨店の横暴を許したために今回の深刻な租税回避を発生させたことを省みるだけでは三面鏡の販売促進に寄与しないことを先月発売されるや否や独逸語圏で爆発的な反響を呼んだアプリオリ散歩手帳に備忘のために克明に記さなればならないだろう……  独言を終えると、タデウシュは読書灯を消して寝台に入る。  そして静かに眠り始める。 ●○●  実際に、この台本に従って一日が進行したことにあなたは驚愕した。一体この演劇にはどれだけの関係者がいて、何を目的として活動しているのだろうか。それは思いもよらないことだったが、とにかくあなたは本日最後にして本日最長の台詞を話し終え、寝台に入ったのだった。あなたは思った。「私を演じてほしい」というタデウシュ氏の依頼をどうやら誤解していたらしい。それは比喩などではなく、まさしくその言葉どおりの意味だった。一日を終えてようやく気づかされた。『私』を演じる――てっきりタデウシュ氏の代理として何か事務でもやるものとばかり思って、気安く引き受けてしまったが、これから一体どうなるのだろうか。玉突きのように様々な空想が弾けた。  影武者にでも仕立てられたのか? それにしては自分は、タデウシュ氏に似ても似つかない。影武者――いや、そんな現実的なものではないのだろう。きっと、氏の言葉を借りれば、これはきっと、もっと観念的な問題に違いない。つまり「自分を脱ぎ捨ててどこかへ行く」という氏の言葉のとおりということだ。長期の旅行で私室を開けるとき、なんとなく不安になるものではないか。すっかり旅支度を調えても、何か忘れているような感じがある。そして、旅行から帰ってきて私室を開けたとき、その室からどことなくよそよそしい感じを受けることは珍しくない。自分がいないときの、自分の部屋は空恐ろしい。何かわからないものがそこに先刻まで在ったように思えてならない。それを防ぐためにここで芝居をさせられているのだ、とあなたは考えてみる。    
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