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――物音。
老教員は眼だけを素早く隣室に向けた。第二の音を待ったが、何も起こらないのでそっと腰を上げる。隣の美術室へと続く扉を開き、中を窺ってみると、画架が倒れていた。立てかけ方が悪かったのか。老教員は室内を見回したあと、その画架をまた壁に立てかけて、書斎に戻った。それからすこしの間、隣室が気がかりだった。しかし気にしないことして、また誌面に目を戻す。一行も頭に入らないまま予鈴が鳴り、仕方なしに老教員はフロックコートを羽織って、書斎から出て行った。
老教員が行ってしまったあと、隣室の陳列棚の陰からそっと姿を現したその女生徒は、画架を一瞥してから足早にこの室を出て行くのだった。
「美術室には、老教員が海外で買い求めた天使人形が置いてある。」
「それは夭折した少女作家の手によるものであるらしい。」
「女生徒はこの天使人形を見るために、毎日美術室へ忍び込んでいる。」
その年の冬、冷たい美術室で気絶している女生徒が発見される。幸いにも大事には至らなかったが、なぜかその場には純白の羽根が散乱しており、天使人形が消失していた。何があったのかと訊ねても女生徒は黙ったまま。
――ここでイメージは途絶える。
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