第2部

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     美術館を出たのは正午だった。  空腹を覚えたあなたは坂道を下って馴染みのレストランへ向かう。まだ開店時間には早かったが、頼んで入れてもらった。 「仕事を辞めてからずっとその調子だね。昼間だというのに栓を抜く」  パスタを茹でながら店主が言う。すこし迷ったものの、結局開けた白ワインの瓶を目の前に置いて、あなたは苦笑いした。開店前の店内に点在する五つの卓は無人で、カウンター席に腰掛けているあなたが唯一の客である。 「芳い香りだ」 「そうかい」 「さっき天使展に行って来たよ」  あなたはグラスを置き、紙入れから特別展の半券を出して見せた。 「でも期待したほどではなかった」 「ほう。友達はよかったと言っていたんだが」 「いや画の評価はさておき、私のイメージする天使像と展示物とが食い違っただけのことだ。店主、あんたは天使を見たと言ったね」 「ああ。見たよ」  こともなげに言う。 「画学生の頃にね。留学先の画材屋で天使を見た。……おまちどうさま」 「ありがとう。それでその話、委しく話してみないか」 「だって正午だよ。これから混み始めるというのに」 「本当の開店時間はまだ先だろう」 「それもそうだが。では話すが、しかし皆が冗談話だと決めつけるのに、君はすこし妙だね。仕事を辞めたとも言うし、何かあったのか」 「それより天使だ」 「うん」  店主はカウンターの向こうから出てきて、あなたの隣に腰掛ける。 「もう十数年も前の話になる。青の絵具が無かったんだ」    
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