一つの部屋

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その場に座り込んでしまう程、驚きのことだった。アルヘナが見た死体はカストルと瓜二つだったのだ。 見てはいけない物を見てしまった。 禁忌の扉を開いてしまった。 後悔しても遅い。 アルヘナは訳が分からなくなってその場から逃げ出した。今日はカストルが不在な為、幸運にも本屋は休みだ。気にせず出ていける。アルヘナは勢いよく外の世界に飛び出した。だがすぐに何かにぶつかる。 慌てて顔を上げると美しい笑顔のカストルが立っていた。 「どうしたんだい?そんなに慌てて。君が怪我したらどうするんだい。」 「お…お帰りなさい。先生。」 「ほら、寒いから中に入ろう。茶会で出されたクッキーが美味しかったから君の分も貰ってきたんだ。」 クスクス笑いながらカストルはアルヘナの背に手を添えて再び扉の中へと連れて行った。 青い青い瞳をした赤毛の青年はいつだったかの茶会で知り合った男が切りもりする本屋に歩いていた。手には持ち帰る程、あの男が気に入っていたクッキーを入れた紙袋を持って。 小さい看板がぶら下がった店の扉を開くとカランカランとベルの音が鳴った。 「いらっしゃい……おや、貴方は確か菓子屋の…」 「えぇ。エイミールです。」 やはり綺麗だ、とエイミールは思った。柔らかく微笑む男の目は自分とは違う月明かりのような灰色。そして髪は金とも銀ともつかない色。 「今日は何のご用で?」 「あ、いえ、特に用はないのですが…。近くまで来たので。良かったらクッキー受け取ってくれませんか?」 少し照れた様子でエイミールが紙袋を出すとカストルがクスクスと笑いながら受けとると、余計にエイミールは顔を赤く染めた。 「どうです?お時間があるのなら紅茶でも飲んでいきません?」 「あぁ是非」 「最近、新しい茶葉が手に入ったので。どうぞ、部屋に入って下さい。」 エイミールが通された部屋はゴシック調の上品な家具が多く、カストルの雰囲気とぴったりと合っていた。 「アルヘナ、おいで。」 すると奥にある別の部屋から茶色い髪の少年が出てきた。よく見ると凛とした顔立ちをしている。 「エイミール、この子はアルヘナと言います。私の店を手伝ってくれているのです。」 「初めましてアルヘナ。君は珍しい目の色をしているんだね」 そう、アルヘナ少年はエイミールのいう通り極稀にしか産まれない紫の瞳を持つ少年だったのだ。
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