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エイミールはカストルがクッキーを持って帰った理由が分かった気がした。このくらいの子供がいれば自分でも持ち帰る。
「可愛い坊っちゃんですね。何歳になるんです?」
「この子、これでも13になったのですよ。」
「13歳ですか?」
思わず再び少年に目を戻したエイミール。アルヘナ少年の見た目はどう見ても13歳には見えなかったのだ。
「奥様は…」
「いえいえ、私、女性とは関わりを持ったことはありません。この子は孤児だったのです。」
「孤児ですか。」
少年の方を見ると少し目を伏せている気がした。余計に幼く見える。
「アルヘナ、紅茶を持ってきてくれるかい?そろそろ丁度良い温度になっているはずなんだ。」
少年が頷くのが見えた。言葉を話さない子だとエイミールは思った。少年の声を聞いたことがない。少年は別の部屋に消えて行った。
「カストル、アルヘナ坊っちゃんは人見知りなのですか?」
「いえ…。少し前までは話せていたのですが…。元々あまり言葉を知らない子だったので。」
「あぁ、なるほど。」
身分が低い孤児だったら言葉を知らなくても不思議ではない。アルヘナ少年が紅茶を入れて持ってきた。
「ありがとう。」
やはり歳の割に小さい手でエイミールの前に置いた。紅茶は甘い香りがする。
「いただいても宜しいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ」
カストルが柔らかに微笑むのを確認しエイミールは紅茶に口を付けた。甘い香りに反して少し渋い味がする。それはエイミールの好みの味だった。口を離して感想を言おうとするとなんだか後ろからわずかに冷たい風が吹いてきた気がした。
振り向くと別部屋に続くらしい扉があった。
「どうしたのです?」
「あぁ、いえ…。紅茶、とても美味ですね」
そう言いながらエイミールはなんだか後ろの扉に呼ばれている気がした。正確には部屋にか。
アルヘナ少年はただただ俯いていた。
一つの部屋 終わり
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