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その日は随分と寒くてさ、みんなコート、ジャンパー、ウィンドブレーカーなんてのを羽織って、マフラーを首にぐるぐる巻き付けてたんだ。
僕も別に例外だった訳じゃない。うろ覚えだけど、高校の制服の黒いコートを着てたはず。ダサくて、重たいヤツ。ただまぁ、僕の持っている服の中で一番温かい服はそれだったんだよ。
クリスマスが近かったのを、これははっきり覚えている。『彼女』はクリスマスツリーの下に、立っていたんだから。
真っ白のノースリーブのワンピースをイルミネーションの光に染めて、その小さな身体には不釣り合いなゴツいヘッドフォンをつけていた。左手には、シーディプレイヤー。そう、持ち運ぶあれじゃない。部屋とかに置く、あの大きなシーディプレイヤー。
クリスマスツリーの下で立っている彼女が吐いた真っ白の息を見てね、あぁ、生きているんだな、って僕は呟いたんだ。
僕は彼女に話しかけた。
『こんばんは』
彼女は吃驚したようだった。例えるなら、自分は幽霊なのに、突然話しかけられた、みたいな。
大きく見開かれた鳶色の瞳が、印象的だった。
次いで、彼女は安心したように、穏やかに、小さく笑った。
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