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「こんばんは!」
そう喋ったのは、彼女じゃなかった。
シーディプレイヤーだった。
彼女はシーディプレイヤーに繋がっていたヘッドフォンのコードを抜いて、シーディを取り替えて、再生ボタンを押したんだ。真っ赤な、目も覚めるような小さなリュックを背負っていたんだけど、その中にぎっしり入っていたのは、シーディだった。
そのシーディの音声は明らかに、彼女の声ではなかった。声変わり前の、少年の声だった。
「初めまして」
「わたしは」
「喋りません」
「シーディ」
「で」
「失礼します」
その音声「達」はそう話した。いろんな声、イントネーションだった。にこ、と彼女は微笑んだ。可愛らしい。そうかも知れない。無邪気で、透明な、
今にも消えそうな笑い方だった。
僕はすっかり驚いてどぎまぎしながら、彼女の視線に合わせて膝をついた。
『ねぇ、君、お父さんかお母さんは?』
「いません」
「わたしは」
「独り」
「の」
「人間」
「です」
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