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部屋の空気で、ちょっと冷たくなった頬。
普段はワックスでまとめてる、サラサラの黒髪。
ゴツゴツした指に、大きな手のひら。
その1つひとつを、身体に、心に刻み付けるように、優しく触れていく。
最後に頬にキスを落とすと、再び彼の腕のなかに潜り込んだ。
甘いにおい。
香水や整髪料ではない、彼自身のにおい。
それが、余計に胸を締め付ける。
あんなに会いたいと願った彼はいま、目の前にいて
これが夢ならば覚めないでほしい、と
どんなに願ったかな。
でも、これは終わりのある現実なんだと、そう伝えるかのような、彼のぬくもりが痛い。
愛しくて、切なくて。
帰る場所が同じだったら、もっと近くにいたら
何度そう思っただろうか。
でも現実は、受話器越しの会話ばかり。
どれだけ電話で『愛してる』と言われても、彼のぬくもりを、感じることはできない。
町行く恋人たちはみんな、すごく幸せそうで。
私もあんな風にできたらいいのに、と。
それどころか、ただ側にいてもらうことすらできない。
そんな距離に、私たちはいて。
自分で選んだ道なのに、離れてしまった距離に、心が折れそうになる。
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