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こんなのに何か意味があるとも思っていないが、人は保険をかけるものだ。いやっそうじゃないのかもしれないが、そう思わなきゃこんな行動をとっている自分が恥ずかしく思える。
「こんなんでいいか」
ポマードで髪の毛を整え終えると手を洗い、美由紀君の前に行った。美由紀君はおれのことを見ると、クスッと笑っていた。
「お坊ちゃんみたいですね」
「他のセットの仕様がないから仕方ないだろ。それより行くか」
手荷物を整えて言った。おれはお昼同様パーカーを羽織った。美由紀君は「はい」と言うようにゆっくり小さく頷いた。そしておれと美由紀君は事務所を出た。
日中に現場に向かった時より、やはり夜ということで変な胸騒ぎがする。夜が怖く感じるのはきっと、いつも見えていたものが見えなく、見えにくくなることで不安が生じて怖く感じるのだ。それで人は見えないことから妖怪や幽霊の存在を作り出したのだ。だから妖怪や幽霊なんかいるはずはないのだ。
今になって、またおれはおれの心の中で口裂け女の存在を否定した。おれも人だ。口裂け女なんか会いたくないし怖い。
事件現場に着いた。雰囲気が何だが嫌な感じで重く感じる。美由紀君は少しおれに近づいた。
「お昼と違って何か嫌な感じですね」
「美由紀君。こんなのは気の持ちようだ。おれは全然、平気だよ」
嘘を吐いた。平気であるのかもしれないが全然平気ではない。ただ気の持ちようと考えているのは本当で、ここで怖がると本当に出るかもという考えが過ぎり、そういう発言になった。別に美由紀君にカッコ付けようとは思ってはいない。
ただ口裂け女について調べ過ぎたのか、内心全然落ち着かない。心臓はバクバクしている。遠くの方を見ると、何かいそうで遠くに視線を移す勇気はない。
「薄気味悪いです」
美由紀君は無言の状態が不安に感じたようだ。キョロキョロと周りを見ながら、独り言のように言った。
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