序章

2/3
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
夜。空は曇っていて星空は見えない。桜が散り、春も終わりになってきて過ごしやすい陽気にはなったが、この時間は少し肌寒い。 時間は二十一時となっていて、ある建物から学生がゾロゾロと出てくる。予備校だ。学生達はやっと帰れるという表情で帰路に向かうのだ。 「はぁ~まだ少し肌寒いな。トモ、一緒に帰る?」 一人の少年が自転車の鍵をクルクルと回しながら聞いていた。聞かれたトモと呼ばれる少年は先を歩いていたが歩みを止めて振り返った。 「ゴメン。おれ母さんが迎えに来るんだ。だから先に帰って良いよ」 トモと呼ばれた少年は両手を合わし、ゴメンとジェスチャーでも表した。聞いていた少年は何度か頷き了承したことを簡潔に伝え、先に帰ることにした。 「あっそういえば。最近夜に学生が行方不明になっているから気をつけろよ」 トモが歩き出す友人の背中を見ながら言うと、友人は片手だけ挙げ「心配無用」と笑いながら言い、帰りに向かった。 ここ最近、塾からの帰りにむかったはずの学生が行方不明になるニュースが多いのだ。四月も中旬になっているのだが、この事件は五件もあるのだ。学生の間などでは冗談交じりに『妖怪』、『幽霊』の仕業で何処かへ連れていかれているのでは?という噂が回っている。 そんな冗談を言われる故は、連れさられたと思われる現場などで怪しい人物を見たと言う人がいないことと、証拠が何も残っていないのだ。 「はぁ~何か不気味な雰囲気だな」 少年は自転車に乗りながら呟くように言った。日中は暖かいがこの時間になると少し肌寒いのと、最近の事件のせいで、いつもと変わらない景色が不気味にとれてしまうようだ。 少年は自転車を漕ぐ速さを速める。一人で勝手に不安になってきているのだ。ふと曲がり角を曲がり真っ直ぐ見ると光って見えるような真っ白のワンピースを着た女性が立っているのが目に入ってきた。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!