その参・遭遇

5/8
前へ
/74ページ
次へ
「誰かとあっただけで驚きそうだけど、本当に人気はなくて誰もいないね」 ゆっくりと首を動かしながら言った。おれの視線にも美由紀君の視線にも人の姿は写ってこない。何も起きないこの状況だが、きっと美由紀君も、そしておれも心臓はバクバクで不安になっている。 何だが薄気味悪さからと視界の悪さで少し霧が出てきているように感じる。きっと不安からそう感じているのか、きっと本当は霧なんか出ていないのではないか。 本当に気の持ちようだな。おれは何か肌寒く感じてポケットに手を突っ込んだ。美由紀君はおれの一歩後ろを歩くようになっていた。 「ん?」 何かが見えた。白い何か。おれの漏らした声を聞くと美由紀君は完璧におれの後ろについた。 「人?か?」 目を凝らす。女性だ。おれの視線に女性が写った。白いワンピースを着た女性。顔は分からないが細身の体型で身長は普通くらいから少し小さいくらいだ。 「あれ女の人だよね?美由紀君」 「えっ?」 美由紀君はそっとおれの背中から顔を出して覗いた。おれは恐る恐る、ゆっくりと女性に近付いていく。 「……綺麗な人だ」 女性に見入ってしまっていた。進む足は止まらず、どんどんと女性に近付いていく。美由紀君はどんどんとおれに置いてかれているが、おれはそのことに気付いていない。 女性はおれに気付いて女性もゆっくりとおれに近付いてきた。よくよく見えてくると、女性はマスクをしていた。しかし目鼻立ちがスッキリしていて綺麗な人だと分かる。 今のおれの頭の中は目の前の女性のことで頭がいっぱいになっている。心を奪われた。そんな感じだ。女性はおれとの距離が10mくらいになると立ち止まり、おれも自然と止まった。 女性は綺麗な瞳をしていた。そんなことを思っていると、その瞳はニコッと笑ってみせてくれた。何を言えば良いんだろう?頭が働かず、おれも自然とニコッと笑みを浮かべた。 「ねぇ」 綺麗な声だ。おれは女性の声に耳を立てた。 「私、綺麗?」
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加