その壱・依頼

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「また行方不明??四月も終わるのに七件目だって?!警察も無能だな」 新聞を広げながらおれは大きな声で言った。最近は行方不明が多い。こんな時は捜索の依頼でも来てくれても良い訳だが、全く依頼は来ない。おれは新聞を乱暴に投げ捨てた。 「先生、毎日毎日、ここで新聞とか本とか読んでないで何かしないんですか?」 美由紀(ミユキ)君がおれの投げた新聞を拾いながら言った。美由紀君は私が経営しいている探偵事務所の秘書だ。もちろん探偵は美由紀君ではなく、他の誰でもない、このおれだ。 「先生って、おれと美由紀君は歳も近いし、何か変だからその呼び方はよさないか?」 確かにおれは探偵だが先生ではない訳で、先生と呼ばれると変に畏ってしまうし、むず痒く感じる。 「先生は先生です。それを言うなら私を君付けで呼ぶの、やめてくださいよ」 「探偵が助手のことを呼ぶ時は君付けが当たり前だろ。ワトソン君なんか良い例だ」 「それは男の人でしょ。それにその理論よく分からないですよ」 何かどうでもいい話が盛り上がりそうだ。しかし、ふとトントンとドアをノックする音が聞こえ、その話の口火を消した。おれと美由紀君はすぐに扉に目を移した。 「はい。何でしょう?」 おれは畏まった声で聞く。扉から「すみません。失礼します」と男の子の声が聞こえ、ゆっくりと扉が開いた。扉の開いた先にいたのは学ランを着た高校生の少年だ。 「何だ、少年?ここは探偵事務所だぞ」 おれは少年に近づきながら言った。少年は扉を開いた時うつむくような感じだったが、おれが近づいたことで顔を上げ、真っ直ぐとした目でおれを見た。 「あのっ、友達が行方不明で探して欲しいです」 少年は意を決するように言った。おれは反応的に何度か頷いた。 「そっか。分かった。詳しく話を聞こう。そこのソファーに座って」 おれは少年をソファーに座らして、おれはその向かいのソファーに座る。美由紀君は自然とすぐにおれと少年の前にお茶を出した。
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