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花咲きそめる早春の、すがやかな朝。
遠くのほうで時計塔が時を告げ、単葉機が一機、プロペラの音を響かせて澄んだ青空を横切ってゆく。
うららかな陽に照らし出され、レンガ造りの家々が立ち並ぶ向こうの街の姿をも、この大きな窓からのぞむことができる。
高台にあって雄大な山脈を背びょうぶにして立つ、メルヴィル家の居城。
その一室で、現当主アステルを幼い見習いメイドたちが囲んで、彼に身支度をほどこしている最中だった。
ニア「1分経過……」
手前にひかえて少女らを監督するのは、懐中時計を手にした見習いではないメイドのニア。
長身でいて細身、わた雪のようにすべらかでいて健康的な色みの肌。
長いスカート丈のエプロンドレス、レースをあしらったホワイトブリムに、白いサテンのロンググローブ。
首すじまでの髪は薄むらさき色をしてつややか。
アンダーリムのスクエアグラスからのぞく深い青の瞳が、しとやかな母親のようにゆかしく輝く。
豊かな胸の胸もとに結ばれた紫の飾りヒモは、ただ主人のみに仕える専属メイドである印だった。
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