・第1話〔1〕

2/7
前へ
/518ページ
次へ
       花咲きそめる早春の、すがやかな朝。    遠くのほうで時計塔が時を告げ、単葉機が一機、プロペラの音を響かせて澄んだ青空を横切ってゆく。   うららかな陽に照らし出され、レンガ造りの家々が立ち並ぶ向こうの街の姿をも、この大きな窓からのぞむことができる。    高台にあって雄大な山脈を背びょうぶにして立つ、メルヴィル家の居城。   その一室で、現当主アステルを幼い見習いメイドたちが囲んで、彼に身支度をほどこしている最中だった。     ニア「1分経過……」      手前にひかえて少女らを監督するのは、懐中時計を手にした見習いではないメイドのニア。   長身でいて細身、わた雪のようにすべらかでいて健康的な色みの肌。   長いスカート丈のエプロンドレス、レースをあしらったホワイトブリムに、白いサテンのロンググローブ。   首すじまでの髪は薄むらさき色をしてつややか。   アンダーリムのスクエアグラスからのぞく深い青の瞳が、しとやかな母親のようにゆかしく輝く。    豊かな胸の胸もとに結ばれた紫の飾りヒモは、ただ主人のみに仕える専属メイドである印だった。  
/518ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加