召し使いと王城の君

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「きゃ――熱っ」  熱い紅茶を入れたティーポットがレティの膝にがちゃん、と転がった。 エプロンドレスはあっという間に立ち上る湯気ごと液体を吸い上げていく。 「!! レティ……!」  駆け付けたアズールはレティをソファへと勢いよく押し倒し、エプロンドレスの裾を一気に捲り上げた。 露わになった華奢な肢体はほんのり桃色に色付いている。 「ア、アズール様、やっ、大丈夫です……私一旦戻って――」 「それじゃ遅すぎる、痕が残るかも知れないだろ」 「…………っ」  アズールはレティの身体をそっと抱き上げ、部屋付けのバスルームへと向かう。  一面を白亜で統一したゴシック様式のバスルーム。 大理石の床からバスルームの孔雀石へと跨いだアズールはすぐさまシャワーのコンクを最大に合わせた。 降り注ぐ水の濁流の中で、アズールはレティの身体をそっと下ろした。 アズールは水が滴り落ちていく金の髪を掻き上げ、座り込むレティの傍へと寄る。 シャワーの水により身体の腺を浮き彫りにされたレティは羞恥により両腕で胸元を覆い、アズールから顔を背けた。 「レティ、大丈夫か? 痛みはないか」 「…………!」  アクアブルーの瞳がまっすぐにレティの姿を覗き込んだ。 彼が本当に自分のことを心配してくれたからこその行いだと改めて気付き、レティは頬を赤らめながらもゆっくりと頷いた。 「よかった……」  主君の安堵の表情を見上げたレティの鼓動は彼女にある一つの真実を告げた。 胸が弾けるような、それでいて熱く、痺れるほど甘く締め付ける胸の高鳴り。 自分はアズールを好きなのだと――。 冷たい雨のような飛沫に全身を晒されながら、レティは熱くなる顔を下方に向かせ、そっと胸を押さえた。  それからというもの、レティはボーッとする回数が増えた。 何よりアズールとの顔合わせが妙に気まずく思え、落ち着きを取り戻すまでは、と同期の者に頼んで代わって貰い、空き時間を手にしては城の蔵書庫へと足を運んだ。 目的は蔵書庫に収められる“ 王城年代記 ”  身分の違いを身に染みて理解しているからこそ、これ以上この気持ちをどうすることもできず、せめて幸せだっただろうアズールの過去を知ることで諦めようと……そう思ったからだった。 
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