召し使いと王城の君

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 隣国の姫リインとアズールは幼少の頃よりの幼馴染みだった。 成人と認められる十五になった年に二人は待ちに待った結婚を執り行い、晴れて夫婦となった。  だがその半年後に悲劇は起こった。 かねてよりアズールの父親が頭を悩ませていた城下に出没するという賊。 アジトを壊滅させられ、逆上した残党の侵入を許した凶刃は壊滅させた父王でも他でもなく、アズールの愛妻リインに向けられた。 城下を賑わす陽動の討伐へと出立していたアズールが戻った時には、リインは息を引き取っていた。  物言わなくなった妻の遺体を抱きながら、アズールは彼女が好きだったという城郭からの夕陽をじっと眺めていた。 そうしてその日を境にし、彼は悲しみの檻の下、心を閉ざしていった―― 「……夕陽」  蔵書庫の窓越し、斜めに射し込む橙色の陽に気付いたレティは思い付いたように城郭への段を昇っていた。 秋口のやや肌寒さを覚える風が頬を撫でていく。 城郭の頂、小さなバルコニーには先客がいた。 それに気付いたレティは思わず身体を引っ込めた。 遥か遠く見える黒いシルエットの山々。 オレンジが光射す雲の谷間から漏れ、空を、雲を、大地を――全てを暖かな色に染め上げていく。 バルコニーの柵に凭れるアズールの金色の髪も、アクアブルーの瞳も今この瞬間だけはきっと……。 三年経った今もきっとアズールの心はこの暖かな色に染まったまま時を越えられずにいるに違いない。 痛み出す胸は自分勝手にレティの胸を締め上げる。 自分勝手な想いはおろか、この場に立っていることすら知られたくなくて、レティはそっと踵を返した。 「レティ……?」 「!!」  柱の影から戻ろうとしたレティは足を止めた。 姿勢をぴんと正して、笑顔を作って。 そう、これは仕事。 主君に対する礼儀作法は一通り学んだ。 だから、その通りにすればいい。  レティは柱の影からしずしずと姿を現し、すっと一礼した。 「アズール様、こんなところにおられたら風邪を引かれますわ。すぐにお戻り下さいませ」 「……レティ…、どうして最近部屋に来ない?」  うっすら不機嫌気味にひそめられた眉に心揺さぶられそうになるも、レティはにこやかな笑顔を絶やさなかった。 「最近腰の具合があまりよくないものですからお暇を戴いていました」 「嘘だ。 俺はお前が他の者と代わって仕事をしていたことは知っている」
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