召し使いと王城の君

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 どうしてそのようなことをアズールが把握していたかは分からない。 けれど、レティはこの暖かな色の魔力を浴びている限りは役を放棄せずに済みそうだとぼんやりとそう思った。 「……召し使いは……他にもおりますから」  笑顔は上手く作れただろうか。 深々と一礼して踵を返したレティはすぐにも段を駆け降りた。 ズキズキ痛む胸はじきに瞼に涙を連れてくる。 俯せ気味に通路を通り抜け、そうして宛がわれた自室のベッドへ俯せた。 身分の違いを理解しているからこそ、傍に行くことが憚れた。 近寄れば近寄るほどに辛くなる。 傷付くのが怖いと思った。 だから逃げた。 こんなことならばはじめから何も知らないままの方がよかった。 腰の痛みを我慢しながら日々の業務を終え、無口な主君の噂話を遠巻きに聞いている……それだけで。  いつの間に眠ってしまったのだろう。 瞼を開いたレティは身体をそっと起こし、近寄った部屋の窓から外の様子を窺った。 射し込む光の眩しさと朝靄けぶる肌への刺激、朝駆けの馬の様子から朝の訪れを知る。 本日は非番、気怠さ一杯に息を吸い込んだレティはドアを叩く音に気付き、ドアを開けると、そこには同期のシアが立っていた。 「レティ、あの王子が、アズール王子が……!」  レティは興奮気味にそう話すシアの言葉に眼をしぱたかせた。  彼は光の中にいた。 国王であるアズールの父王と王妃の前に跪いた後、次に顔を上げ、アクアブルーの瞳で真っ直ぐに玉座を見据えた。 「王政を司るべき者が長きに渡り、不甲斐なくも父上の胸をお借りし、こうしておめおめと生き恥を晒して参りました。  しかし本日を以てこのアズールは、ここに集まった皆の前で誓おうと思う。  長きに渡り、皆に心許ない思いをさせたことを詫びると共にこれからも私と共にあってほしいと願っている」  集められた使用人達は皆歓声を上げ、そうしてアズールの名を讃えた。 無礼講の名の下に突然催された昼餐会は多くの者達で賑わい、アズールは彼等一人一人を丁寧に回っていた。 非番とはいえ、このような催しに参加しない訳にもいかず、レティは所在なさげに端に寄り、その様子を遠巻きに眺めていた。 「ねえ、レティ」  隣に立っていたシアはそっとレティの顔を覗き込んだ。 「私ずっとレティの代わりにアズール様のお世話をしてきたじゃない? すごく驚いたんだけど」 「…………?」 
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