第一章  ~ピンク~

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湖に沿って建物に近づくにつれ、段々と何かの声が聞こえてきます。泣き声です。何かに反発するように、ひたすらわめくような泣き声です。 ピンクはラダンと視線を交わすと、二人で一目散に別邸の中へと入ります。老師を置き去りにしたことに気づいたのはもっと後になってからでした。声が聞こえてくる奥の間のかわいい扉を開きます。そこには確かにあの時、村で見た赤ん坊がいました。 赤ちゃんは顔を真っ赤にし、手足をばたつかせ泣いています。まるで、体全体で何かに抗議をしているように見えます。 「ラダン。赤ちゃんのサイズが変わっちゃってる。あんなに大きかったのに、私でも抱けちゃうサイズになってるよ。」 「術者が呪をほどこしたんだろう。」 ラダンは扉の所で硬直しています。ピンクは急いで近寄りベビーベットからこわごわと赤ちゃんを抱き上げました。 「ほら、よしよし、泣かないで。」 赤ちゃんは泣きながらも、きらきら輝く色素の薄い茶色の瞳でピンクの顔をじっと見つめます。心を許してくれたのか、次第に泣き声は途切れ、すやすやと眠ってしまいました。赤ちゃんはぷっくりしていてやわらかく、肌は透き通るほど真っ白です。髪の毛はまだ薄く、淡い金色をしています。ほっぺたとぽってりとした唇は愛らしいほのかなピンクです。健やかな寝顔は、さきほどとはうって変わって、まるで天使の様です。 「ラダン、眠っちゃったよ。」 そう言って振り返ると、ラダンはまだ扉の傍にたたずんでいます。 「どうしたの?」 ラダンは目を見開いたままで、なんだか苦しそうです。なんども息を吸い込み、やっとしぼり出すように言いました。 「額に印がある。」
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