第一章  ~ピンク~

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「赤ちゃんの額に?何も見えないけど。どうしたの。こっちに来ないの。」 そう言って、近づこうとしたら、ラダンは焦ってこう言います。 「来ないでくれ。その子の力が肌を刺すように痛いんだ。僕はこれ以上近づけない。」 ピンクはどうしてよいのか分からずに、固まってしまっていました。 「おや、早々と再開を果たしたようですね。はは。やっと追いつきましたよ。」 ラダンの後ろから老師がゆったりした声で言いました。 「ラダン、これを。」 ラダンの様子を見て取ると、老師はラダンに黒の球を渡しました。片手にすっぽり収まるくらいの大きさです。一見、透明に見えますが、見れば見るほど黒色は深くなりやがて漆黒となりました。更に見つめていると、なんと一つ二つと、光のまたたきが現れます。そのまたたきがまた、黒の深さを引き立てるのです。光は数をどんどん増やし幾層にも重なって行きます。 (これは、ミルキーウェイだ。) 小さな球はその中に無限の広がりを秘めています。月の光が現れて、淡い光が黄色く薄く伸びて行き、新しい情景を作り出しています。夜空を閉じ込めたこの球にラダンはすっかり魅了されました。 「ほら、もう苦しくないでしょう。」 老師の声でラダンは我に返ります。 そういえば、さきほどの圧迫するような力が無くなっています。苦しかった呼吸が楽になり、空気が簡単に肺に届きます。 老師はピンクに歩み寄り言いました。 「もう一人の赤ん坊に会う前に、あなたにもこれを渡しておきましょう。」 ピンクの抱いている赤ちゃんを受け取ると、老師はピンクに白の球を渡しました。 最初、白の球も限りなく透明でしたが、見る間に白く変わっていきます。それは空を覆う真っ白な雲でした。眺めていると、雲の隙間に光が差し込み、花びらの様な雪が舞っています。光を受けて雪の結晶がきらめきます。雪の散り行く先には凪いだ海が空と雪とを映し出しています。そこへ光が差し込みました。光は世界を見たことも無い白へと染め上げます。ピンクは他の全てを忘れうっとりと、球に見入ってしまいました。 「ぎゃーーん。」 赤ちゃんが目を覚まし、存在を主張するようにぐずっています。ピンクは白の球から目を引き離すと、急いで赤ちゃんを抱いた老師の傍にかけよります。 「あなたが好きなようですね。」
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