第一章  ~ピンク~

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ピンクに両腕を伸ばし、じたばたする赤ちゃんを見て、老師は笑ってピンクの腕に赤ちゃんを渡してくれました。 「球は形を変えることができるのです。」 そう言って、どうやったのか、老師は球を指輪に変えてピンクの人差し指にはめてくれました。ラダンはすでに球を指輪に変え、指にはめていました。 「この子にとって、昼の世界は突然のことなのです。パニックになるのも無理ありません。」 老師は赤ちゃんの頭を優しくなでました。 「もう一人の赤ん坊に会わせると、いたずらに混乱させるだけです。この子はこちらへ置いて行きましょう。」 そうして、赤ちゃんはお世話係りに託されます。 どうやら、もう一人の赤ちゃんもこの別邸の中にいるようです。老師に案内されながら三人で向かいます。窓が沢山あるために外の景色が間隔を置いて流れて行きます。外をぼんやり見やると、湖面には蓮の花がぽつぽつ咲いています。廊下が窓からの光で足元に窓枠を映しています。その光の間隔をスキップしながらピンクは、老師にふと尋ねます。 「老師は白と黒、どちらに属するのですか。」 「私はちょうど、理の力が均衡する場所で生まれました。私の土地の者は皆、白と黒のどちらの影響も受けません。村人は皆、夕暮れと朝焼けの時刻に誕生します。」 「それじゃ、理の制約はないのですか。」 「これを、理の制約と呼べるのか分かりませんが、我々は白と黒のどちらの影響も受けないかわり、妖精の能力が欠如しています。飛ぶこともできません。ですから、我々が出世の道を目指す時、多くの者は学者を志します。 幸運なことに道は開かれているのです。」 「そうなんですか。」 ピンクは飛ぶことが大好きです。老師がその楽しさを味わえないと思うと悲しくなりました。ピンクがしゅんとした悲しい顔をしていると、老師はふっと笑みをもらします。 「私は古文書の解読という仕事に従事しています。私はそれを自分の特異能力だと自負しています。どの力を手にした者も皆、全てを手に入れているわけではありません。誰しも皆あるがままの力を認め、自分で道を切り開くしかないのです。 私は自らに満足しています。どうか悲しい顔をしないで下さい。」 老師の言葉を聞いて、ピンクは老師と笑みを交わしました。ラダンは表情を変えません。緊張しているのでしょうか。
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