第一章  ~ピンク~

18/30
前へ
/30ページ
次へ
老師はある扉の前に立ち止まりノックをします。そうして、そっと中へ入ります。お世話係にあやされて赤ちゃんがかわいい声できゃっきゃっと、笑っています。赤ちゃんは漆黒の髪につぶらな黒の瞳をしています。肌は黄色く、白に属する者のイメージとはかけ離れているようにピンクには思えます。 赤ちゃんは闖入者に気づき、ラダンに目をとめます。ラダンも何か感じるものがあるのでしょう。赤ちゃんに目が釘付けです。 「なんて、かわいい子なんだ。」 ラダンはゆっくり近づき赤ちゃんを抱き上げます。赤ちゃんはごきげんでラダンを小さな手でぺたぺた触っています。その時、ふとピンクは赤ちゃんの額に文字が浮き出ているのに気付きました。薄い緑の文字がぼんやり見えます。まるでみみずのようなくねくねした文字です。 「ラダン、額に文字が見えるわ。」 ラダンは赤ちゃんをまじまじと見つめます。 「やっぱり僕には、見えないな。残念だ。」 ラダンは赤ちゃんの額を親指で優しくなでます。そんな二人を見つめるうちにピンクは黒の赤ちゃんに無性に会いたくなりました。どうしてだか、会った瞬間から強い絆を感じるのです。きっとラダンと赤ちゃんもそうなのでしょう。 その日は、お城に泊まることになりました。一日のうち初めての体験が山ほどありました。ピンクはひどく緊張し、また興奮していたので、夜の食事も食べられないほどくたくたでした。失礼にあたるかもしれないので、晩餐会には出ようとしていたのですが、ラダンが休むように言ってくれたので、その言葉に甘え今はもうお布団の中です。指にはまった指輪をちらっと眺め、ピンクはすやすやと眠りにつきました。 翌朝、朝の日差しで目をさまします。ぼんやりと目を覚ましたピンクは部屋の豪奢さに一瞬で目が覚めました。天蓋のベッドはふわふわで、刺繍のほどこされたきらびやかな布が頭上から幾重にも垂れています。部屋の中にはクリスタルのシャンデリアがあり、絨毯も壁も落ち着いた赤茶色で統一されています。まるでお姫様になったような気分です。昨夜はふらふらで、部屋の中に気を配る余裕がありませんでした。半ば呆然としていると、メイドが洗面器とタオルを持って来てくれました。新しい服が用意されています。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加