1人が本棚に入れています
本棚に追加
むかしむかしあるところに、誰にも知られない土地がありました。森の奥深くで、霧に囲まれていたので、そこには今はもう絶滅してしまった昔の生物がのびのび暮らしていました。またそこは、妖精の最後の王国でもありました。
ほうき星が夜空に現れたある夜、妖精の王国の外れに一人の女の赤ちゃんが誕生しました。赤ちゃんは誕生と同時にピンクに光る四枚の羽で部屋中を飛び回るほどわんぱくでした。ほうき星は宿命を与える星といわれます。そこで、赤ちゃんはディステェニーと名付けられました。妖精の国では本当の名前を知っているのは限られた人だけです。家族や親戚といった人々です。赤ちゃんはその容貌から普段はピンクと呼ばれていました。妖精は人の何倍も生きることが出来ます。森の霧に守られた王国でピンクはすくすく成長しました。ピンクは仲間うちでも優れた羽を持っていたので高く高く飛ぶことが出来ました。しかし、昼間空を高く飛ぶことは禁じられていました。おばあさんがいうには、羽が太陽の熱に耐えられないということでした。おばあさんはこうも言いました。
「昔、あの恐ろしい人間の中にイカロスという名のものがおってな。ろうで作った羽で、太陽を目指したんじゃ。しかし、太陽に近づけば近づくほど熱が強くなってな。やがてろうの羽は溶けてしまって、イカロスは地上に墜落したんじゃよ。
……愚かな人間のすることを、わしらが真似せんでもいいんじゃ。」
その話を聞いた時、ピンクはイカロスに大きな親近感を抱きました。ピンクも太陽の照らす青い空を自由に飛びたかったからです。おばあさんはよく恐ろしい人間の話をしましたが、その話が恐ろしければ恐ろしいほど、ピンクは人間に興味をかきたてられるのでした。
夜になると、ピンクは空を自由に飛びまわります。新月の夜などは、星の輝きがまし、ピンクの羽は星のまたたきでダイヤモンドの様に輝きました。
最初のコメントを投稿しよう!