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「この発見は大きな意味を持った。この国に理の力をもたらしたのは妖精の王とする主張、王が国権を握ってきた正当性を否定する発見だったからだ。
…秘宝を発見したのはあの老師ということになっている。彼らはずるく、かしこい。この事実をつきつけ、隠匿することで国の中枢にいっきに躍り出た。王としても、古文書を解読できる彼らをたよらざるを得ないし、また王の覇権を揺るがすこの事実を民に伏せることで弱みを握られている。王は傀儡になりさがった。
彼らはずっと、この機を窺っていたんだ。」
ラダンは表情をゆがめて言った。
「そして、古文書の正当性が示された今、僕は皇太子の権利を剥奪された。運命の子であるという理由でね。」
「ラダンは王になりたかったの。」
「うん。それだけが僕の存在価値だった。
…ずっと、苦しかった。現実を受け入れるのが。」
ラダンはそう言って遠くを眺めました。そして、口の端に小さな笑みを浮かべて、こう言いました。
「ピンク、赤ん坊と会った時、強烈な感情を感じた?」
「うん。赤ちゃんを見るだけで、幸せが押し寄せてきた。心の奥がぽかぽかする様な素敵な気持ち。」
ラダンはゆるぎない瞳でまっすぐピンクを見つめます。
「これから、君が担う責任は重い。僕は、ピンクに今のままでいて欲しいけど、ずるく振舞うことも覚えなくちゃいけない。見えない糸でいつのまにか縛られることのないように、常に策謀がはりめぐらされていることを頭の片隅に置いておくんだ。
知らないでは済まされないことが多くなる。色んな立場で一つのことを見るくせをつけるんだ。
いいかい。例えば老師。彼は僕にとって不気味な存在でしかない。でも、彼には彼の立場での正義と信念、そして野心がある。君は彼に対する判断を自分でつけなければならない。
実は、僕は赤ん坊に会う前、赤ん坊を利用することしか考えていなかった。」
ピンクは驚いてラダンを見ます。
「でも、赤ん坊を見て気持ちが変わったんだ。僕の屈折した感情が癒された気がする。彼が、僕の邪気をはらってくれたのかもしれない。
これから僕は、ピンクとは反対の立場になるだろう。僕は何があっても、赤ん坊を守るつもりだ。ピンクと敵対することになってもね。でも、できればそんな事態は避けたい。」
ラダンの目は決意に燃えていました。
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