第一章  ~ピンク~

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ピンクは午後になって、赤ちゃんに会いに行きました。赤ちゃんは昨日よりはずっと落ち着いています。ゆりかごをゆっくりゆらしてあげると安心するようです。赤ちゃんを見ていると、ピンクの気持ちもほぐれて行きます。やがて、赤ちゃんが寝てしまうと、ピンクはイスに座ります。ため息が一つもれました。ふと、指輪に目が行きます。そっと指輪を外してみます。すると、指輪は球の形になりました。人指し指でつつこうとすると、指は球の中にすっと入ります。すると、球は形を指輪に変え、指に収まりました。 「不思議。」 ピンクは何度も試みました。何度やっても、同じ様に球は形を変えました。慰めを求めて、ピンクは球を見つめます。球は透明からみるまに白くにごって行きます。それは、小さな白い塊です。白の塊はもくもくと大きく成長して行きます。真っ青な青の中を、一つの方向に向けてぐんぐんのびて行きます。 (まるで、白い塔みたい。) それは、夏の風物詩、入道雲です。今度は塔のてっぺんから雲の中を、いっきに急降下。下降するにつれて、景色が暗くなります。段々大きな水滴がふよふよと漂い、ピンクはそれらを追い越します。下降するほど水滴は大きくなりました。突然、大音響が頭の上ではじけます。青い光とともに、大粒な水の塊が吸い込まれるように地上へまっさかさまに落ちて行きます。 (稲妻だったのね。) ジグザグの光の線は乾いた大地へつきささります。ひからびた大地は天の涙を喜んでいます。 大地から空を眺めると灰色でした。でも、その向こうには限りない青が広がっているのをピンクは知っています。 球は再び透明になりました。
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