1.あたりまえに続くはずの日常が消えた日 

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「花桜、来なさい」 俺とやりあったばかりの祖父ちゃんが次は花桜の前で竹刀を構える。 静かな打ち合いから始まった花桜と祖父ちゃんの稽古。 お互いの響き合う声と太刀筋を必死に追いかけていく。 水の流れか……。 二人の稽古を見つめながら、俺自身の筋肉に触れていく。 もっと自然に……もっと流れるように。 一人で道場の隅、型を復習するように筋肉の動きを辿るように竹刀を振るいつづける。 俺が一連の型を復習した後も、 花桜と祖父ちゃんの打ち合いは続いていて、 玩味した瞬間、花桜の切っ先が祖父ちゃんの肩を突いた。 「はいっ。  それまで」 冷静な祖父ちゃんの声が響くと花桜は、 肩で息をしながらゆっくりと構えを解いて祖父ちゃんにお辞儀した。 「花桜、お前どんな神経してんだよ。  祖父ちゃんと30分も打ち込み続けるなんて」 お前さ、祖父ちゃんが高齢だって自覚あるのかよ。 祖父ちゃんの介助をしようと近づくと、 祖父ちゃんは花桜に向かって告げた。 「花桜、強くなったな。  二人ともそこで待ちなさい」 祖父ちゃん声には俺と花桜は、床に正座して姿勢を正す。 祖父ちゃんは道場を出て暫くしてから、 丁寧に布袋に包まれた長いものを手にして道場へと戻ってきた。 「決めたぞい。  わしの息子、敬明【としあき】は論外。  敬里では役不足じゃな。  我が家に代々伝わる家宝の剣を  私は花桜に託すことに決めたよ。  ご先祖さまも……花桜ならば、  許してくれるだろう。  今、空を見上げながら話して決めた」 敬明【としあき】伯父さんは、 名前しか知らない俺の父親のお兄さん。 アイツの父親の名前だ。 祖父ちゃんがそう言って手渡したものを花桜は受け取って、 ゆっくりと解き放つ。 真剣。 そして銃刀法違反にならないようにと所持を許されてる許可証。 「これ……」 花桜が呟く。
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