1.あたりまえに続くはずの日常が消えた日 

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「私の亡き父上から譲り受けた  先祖代々の宝だ。  何でも我が一族の御先祖様の形見だそうだ。  ご先祖様の一人、総助【そうすけ】さまが残した書によると、  総助さまには、物心ついた時から父上はおらず、  母上と、この家宝の剣だけが支えだったという。  総助さまにとって、この家宝の剣は亡き父上とを繋げる唯一の存在。  そして空。  空だけは、何時の世でも父上に繋がっているのだと  この家宝の剣と共に代々伝わる書には書き記されていた」 祖父ちゃんの大切な宝物。 花桜は、それを継承することが許されて俺は叶わなかった。 それはある意味、俺にとっての敗北で悔しさに唇を噛みしめる。 そのまま一礼をして俺は道場を後にした。 花桜と祖父ちゃんを二人だけにする方がいいような気がしたから。 そう言ったら聞こえはいいけど、 本音は、俺自身を立て直したかったから。 試合の時間までに。 自室に戻ってシャワーを浴びて制服に着替えを済ませると、 母屋へと向かう。 そこで、台所に顔を出して冷たい氷水をグラスに注いで一気に飲み干した。 「敬里……イライラしてはいますね。  敬介さんが家宝の継承を花桜に決めました。  だけどそれは、決して貴方が花桜と比べて劣っているとか、  決してそう言うわけではないのです。  花桜の父、敬明もまた継承は許されなかった。  あの刀は、そう言うものなのです。  敬里、家宝を刀を継承することは叶いませんでしたが貴方も大切な存在。  貴方の剣の道を精進しなさい。  来るべき日の為に」 来るべき日の為に。 祖母ちゃんが紡いだその言葉がやけに引っかかったけど、 俺にはその言葉が隠し持つ本当の意味など知らない。 俺は祖母ちゃんに一礼して台所を後にすると、 アイツの姿を探す。 「花桜、そろそろ時間だろ」 アイツが居る場所を探して声をかける。 「行ってきます」 俺に気が付いてアイツは荷物を手に近づいてきて見送ってくれた家族に告げた。 玄関を出て暫くすると、 先に道場離れて朝食を取っていたらしい舞が合流する。
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