1.あたりまえに続くはずの日常が消えた日 

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キラリと月夜に輝く一筋の刀。 月の光に反射する、その剣を何度も何度も振るいながら倒れていく夢。 その夜、オレは何時も見る不思議な夢にプラスして、 厄介な夢を繰り返し見ていた。 目を覚まそうとしても、その夢はオレ自身を縛って、 なかなか夢から解放してくれない。 息が止まりそうな思いをしながら、 オレは慌てて飛び起きた。 ハァハァハァ……っと呼吸を何度か繰り返して、 頭の中が冴えわたってきたところで、冷静に周囲を見渡す。 大丈夫だな。 まさかな……あの夢が現実だってことなんて、 あるわけないさ。 今居る場所が山波邸の別館、 山波道場内の一室にあるオレの部屋だということに安堵して、 オレはゆっくりと体を起こした。 外は夏の朝日が昇り始める頃。 もう一度、眠る気にもなれずオレはパジャマを脱ぎ捨てて、 洗濯後の剣道着へと袖を通した。 俺、山波敬里【やまなみ としざと】は物心ついた時から、 この山波道場で寝起きをしていた。 道場主の祖父【じい】ちゃんの名前は山波敬介【やまなみ けいすけ】。 そして祖父ちゃんのパートナーである祖母【ばあ】ちゃんの名前は、 山波明里【やまなみ あかり】。 いつも和服に身を包んで、華道に茶道、挙句の果ては薙刀まで似合う 勇ましい祖母ちゃん。 祖父ちゃんの少し後ろにピタリと添うように、 散歩する姿は、時代劇の中の夫婦のようにも映る。 そんな祖父ちゃんと祖母ちゃんが、 この場所で物心ついた時から、親代わりに育ててくれた。 親の顔も記憶も存在しない、 そんな俺が唯一、情報として知っているのは両親の名前。 親父の名前は、山波友介【やまなみ ゆうすけ】 そしておふくろの名前が、元・斎藤姓で里子と言うらしいが、 それも祖父ちゃんと祖母ちゃんに、そう教えられたからそうなんだっと 理解する程度で、それ以外は何もない。
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