1.あたりまえに続くはずの日常が消えた日 

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そう証拠なんてないんだ。 俺のアルバムには、親父もおふくろも一枚も写ってない。 俺のアルバムは、祖父ちゃんと祖母ちゃんといる写真がほとんどなんだ。 そして……アイツ。 俺の従兄弟らしい存在、現在、聖フローシア学園なんて言う、 お嬢様学校に通学する、高校二年生の山波花桜【やまなみ かお】。 アイツが俺のアルバムには沢山、写っていた。 剣道着に着替え終わった俺は、洗面所で冷たい水でバシャバシャと顔を洗うと、 タオルで水分をふき取って、気合を入れるように両頬を手のひらでバシンと打ち付けた。 今日は剣道全国大会当日。 気が高ぶりすぎて何時にもまして、 あんなおかしな夢を見たのかもしれない。 時間は4時半。 祖父ちゃんが朝稽古に来る前に、 きっちりと道場の床拭きしておかないとな。 練習の後、すぐに着替えやすいようにハンガーにかけた制服と鞄を手にして、 道場へと向かう。 「敬里、おはよう。  早起きですね」 「おはよう、祖母ちゃん」 「今日は全国大会ですね。  友助や里子さんに代わって貴方の勝利を祈っていますよ。  さっ、練習の前にお結びを作りましたから食べなさい」 そう言って祖母ちゃんは俺の掌に、 ラップに包まれた大きなお握りをポンと乗せた。 「有難う」 部屋の灯りに気が付いて、わざわざ持ってきてくれたのかな。 祖母ちゃんは、俺にお握りだけ手渡すと、 道場から母屋の方へと向かって歩いて行った。 祖母ちゃんの大きなお握りには、 お弁当の様に特製の具材が詰まってる。 卵焼きにミートボールにウィンナー。 いつもの中身だと信じて、ガブっとかぶりついたら、 いつもと違う歯ごたえ。 慌てて口元から離して視線を向けると、 トンカツがお握りの中から姿を見せる。 祖母ちゃん……なんだよ。 ゲン担ぎかよ。 そんなことを思いながらも、祖母ちゃんの優しさに心の中が温かくなる。 パクパクとお握りを食べ終えて道場にある控室の小さなキッチンの冷蔵庫から、 麦茶を取り出してコップに注ぎこむと一気に飲み干した。 その後、手早く汚した食器を洗って片づけた後は、 別の流しへと向かって、道場の掃除専用のバケツを手に取っていつものように水道水を勢いよく注ぎこむ。
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