1.あたりまえに続くはずの日常が消えた日 

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雑巾をじゃぶじゃぶと突っ込んで手慣れた手つきでギュっと絞る。 その後は、バケツを持って道場の方へと向かう。 まっすぐに姿勢を正して一礼すると床にバケツを置いて、 中腰の姿勢のまま、一列ずつ一気に床を拭いていく。 何度も同じ作業を繰り返しながら掃除を続けていると、 背後から声が聞こえる。 「おはよう、敬里。  今日も早いね」 「まぁな。  まっ、アイツは夢の中だろうけどな」 「そうだね、  花桜は、まだ夢の中っぽいよね」 そう言いながら手にしていたもう一つの雑巾を同じバケツにいれて、 絞っていくのは加賀舞【かが まい】。 祖父ちゃんの道場に通う門下生の一人。 そして俺にとっては同じ藤宮学園に通うクラスメイト。 クラスメイトって言えば聞こえはいいが、 幼馴染のような姉御肌で、いつも鈍感すぎるアイツに振り回される俺を支えてくれる。 「さっ、敬里。  早く片付けて練習相手になってよ。  フローシア代表が花桜なんだから私、負けられないんだから。  敬里と私で今年は、男女W優勝目指すんだから」 そう言うと舞は、最後の一列を中腰になって拭いていく。 二人で床掃除を終えると舞はそのままバケツを片づけて、 その代わりに防具と俺の竹刀を手にして戻ってくる。 「敬里、手加減しなくていいから。相手してよ」 「何言ってんだよ。  舞が幾ら強いからって男と女は元々の力が違うだろ。  手加減しとかないと今日の花桜との試合で支障が出たなんて言われたくもないしな」 そんな言い方をしながら防具を身に着けて、 ゆっくりと道場の中央へと歩んでいく。 すでに舞は準備が整って待っていた場所へと向かい合わせに立った。 「お願いします」 「お願いします」 お互い挨拶を交わして互いの竹刀の切っ先を迎えあわせる。 緊迫した空気が周囲を包み込む。 すると舞が先に一歩踏み込んで仕掛けて来た。 舞の一撃をすぐに打ち返して連打で打ち返していく。 道場の中に響くのは俺と舞の掛け声だけ。 何度かの打ち合いの後、俺の竹刀は舞の防具を打ち付けた。 「それまで」 何時の間にか道場に顔を出していた祖父ちゃんの声が周囲に響く。 「祖父ちゃん」 俺が振り向くと同時に祖父ちゃんは舞の傍へと近づいてくる。
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