1.あたりまえに続くはずの日常が消えた日 

5/8
前へ
/12ページ
次へ
「加賀君、右足が力んでいるね。  県大会で負傷したところを無意識に庇っている。  痛むのかい?」 えっ? 舞の傷は完治してたんじゃないのか? 学校の部活だってアイツは一日も休まずに出てた。 「テーピングをしっかりして望みます。  今日は全国大会ですから」 「あぁ、剣士の覚悟は止めることはしないよ。  ただこれ以上の練習はやめておきなさい。  どれ敬里の相手は私がやろうか」 祖父ちゃんがそう言うと舞は防具を取って、 祖父ちゃんに一礼して道場から退室していく。 二人だけになった道場。 祖父ちゃんと向かい合うだけで背筋が伸びる思いがする。 「さぁ、敬里。  何処からでも来なさい」 言われるままに祖父ちゃんに次々と繰り出していく俺の竹刀。 だが祖父ちゃんは、軽く交わしながら逆に打ち返して来る。 化けもんかよ。 これで祖父ちゃん、もうすぐ80後半になるって言うんだから どんな体力してたんだよ。 「敬里、もっと太刀筋を先読みしなさい。  力任せにしない。  相手の力を吸収しながら利用して返していく。  剣の道は水の流れの如く」 「はいっ」 俺にそう言いながらも祖父ちゃんは必死に繰り出す俺の一撃を受けて、 涼しい顔で受け流していく。 そんな祖父ちゃんの流れるような太刀筋がスローモーションに映って見えた時、 祖父ちゃんの竹刀が俺の胴を突いた。 「失礼します」 その瞬間、大遅刻の花桜【かお】の声が道場内に響いた。 「敬里、それまでじゃ」   祖父ちゃんの声が響いて俺は慌てて祖父ちゃんに一礼する。 俺は防具を外して花桜の方へと向かう。 「花桜、何遅刻してんだよ」 「煩いなっ。  敬里なんかに、そんなこと言われたくないわよ。  アンタの方が今日は、たまたま早かっただけでしょうに」 たまたまかよ……。 お前が俺より早く来たのって、 俺が高熱出して朝練に遅れた時だけだと思うんだけど。 俺にそんな言葉を返しながらも、 アイツはすぐに防具を身に着けて稽古支度。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加