第2章 大切だから

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 ある意味それは事実なのだが、あえてたたみかける必要はない。  彼は彼女の笑顔が見たいのだ。  その意識を自分に向ける事を忘れずにいてくれれば、多少の寂しさも我慢できる。  地上の子供達が困らないようにと、大地が安定し続けるために、エダーナは滅多に天と地の境界を訪れる事をしなくなった。  だからそれ以来、ヴァードァナが地上にやって来るのだ。  「何でもない……おまえが心配する事はないよ」  そう言いながら、ヴァードァナは大切な者をそっと抱き締める。  天の闇に常に抱かれている大地にとって、それは拒む必要のない抱擁だ。  だがこの時、彼女はわずかに身じろぎした。  そこでやっと、彼はエダーナの異変に気づいたのだ。  「エダーナ、どうしたんだ、この背の傷は……」
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