第3話

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「俺に、行けってか。ちぇー。」 アキラはズボンのポケットに両手をつっこんで、そそくさと怒ったピンクをなだめに後を追いました。 ラダンはバルスに言います。 「空間を空けたのはわざとだろう?出発の時を知らせたんだね。」 「どうして、分ったの。」 「だてに、古文書を読んでいるわけじゃないよ。」 「心配かけたくなくて。それに、本当にラダンとピンクについて来てもらうのが正しいことなのか、アキラと迷っているんだ。危険だから。」 「水臭いな。今更だぞ?どうなろうと一緒に行かないほうが後悔するよ。」 その言葉に、バルスは御影石の様な瞳を輝かせました。いつのまにか精悍になったバルスの面差しを白けた朝の日があらわにします。 バルスの面ざしは独特です。人間の姿を見慣れていないかもしれませんが、浅黒い肌に漆黒の髪、シャープな顎に力を与えているのがなんとも深い色をした瞳です。真夜中の空のように深く、しばし星が瞬くように意志のきらめきを見出すことができます。アキラの様に美しいとは言えないかもしれませんが、とても印象に残る姿です。 風が目にかかる前髪をさらいバルスの額をあらわにしました。そこだけは不自然にふくらんでいます。そのこぶを気にしてか、バルスは前髪を無造作に伸ばしていました。 「おや。私の同行は望まれていないのでしょうか。」 背後から声がしました。 「タイ=ピン。」 ラダンがつぶやきます。いつのまにか、老師は傍にいました。 「人が悪いな。気配を消して近づくのは止めて下さいって、何度も言っているのに。 もちろん、歓迎しますよ。でも、あなたにはその気がないのでしょう。」 ラダンはたんたんと言います。老師は面白そうな表情で返します。 「おや。これは寂しいことを。 そうですね。力のないわが身では同行はとうてい無理でしょう。しかし、ついていけるものなら、あなた方ではなく、ピンクとアキラの方ですね。 実は、あなた方よりも、ピンクとアキラの方を心配しています。」 おやっと首をかしげラダンは尋ねます。 「なぜです。」
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