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ふいに、俺の横でギキーッと金切音が鳴った。
驚いて振り向くと、自転車に乗ったじいさんが「邪魔や」と言った。
俺はじいさんを思いっきり睨みつけ、「あ?」と低い声で返事した。落ち窪んだ真っ黒な目はまだ文句を言いたそうだったが、じいさんはすごすご引き下がった。
歩道で今度は若い女性にぶつかりそうになっている。女性に対しても文句を言っている。
ああ、イラつくな。
俺はわざとじいさんの近くを通り、
「うっせえんじゃ」
と呟いた。
じいさんは悔しそうにこちらを見たが、やはりかかってはこない。
相手を選んでるんだな。
強いヤツに頭(こうべ)を垂れて、弱いヤツを威嚇する。
情けねえ。
じいさんに因縁をつけられていた女性は、俺にぺこりと会釈をし、そそくさと去っていく。その細い背中を見送ってから、俺は踏切を渡った。
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